This dedication.

【髪を逆立てる猫・髪を逆立てる犬・髪を逆立てる鰐・髪を逆立てる机・髪を逆立てるスープ、わたしの髪は怒りで逆立ってしまう。それをあなたがひねり上げる、片手で。あなたはわたしよりも高いところに居るから。わたしには見えるあなたが椅子を使っているのが、あなたの裸足が椅子の木の茶色に触れている、わたしのすぐ耳の横にそれがあるから。あなたはわたしの髪をぐっと掴んでまた離してしまう。わたしは失望を感じる。決して体験してはいけないような類いの失望をわたしは体験している。あなたがわたしの髪の毛を掴んでは離すというその連続した行為。猫は髪を逆立て・犬は髪を逆立て・鰐は髪を逆立て・机は髪を逆立て・スープは髪を逆立て、怒りで髪の毛を逆立てるわたし。あなたの片手にひねり上げられるそれ。わたしはあなたよりも低いところに居るため。あなたが裸足を椅子の気の茶色に振れ、わたしに椅子を使っているのを見せる、それがわたしのすぐ耳の横にあるため。わたしの髪はあなたにぐっと掴まれてまた離されてしまう。わたしの感じる失望。決して体験されてはいけないような類いの失望がわたしに体験されている。わたしの髪の毛があなたに掴まれては離されるというその行為を連続する。】

あなたはこの様子をありありと目撃することになる。この様子はあなたにまざまざと見せつけられることになる。

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【It’s all good darling, universe is watching you. You, healer, such a creeper.】

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“Somewhere in LV.” “Las Vegas?” “No, love. Love.” “That’s really sad.” “Hmm.”

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—思い出・memories—

「あの時サボテンが両脇に突っ立ってる道を車で走っていたね」わたしは郊外にある一軒の陽の当たらない家の机の前に座って、一度丸めた後に思い直して広げた紙にこう書き付ける。部屋のなかは冷たい。寒いのではなく、冷たい。椅子の下にすっかり転がっている猫の髭が素足の指先に触れる。ペンは堅く細く、紙を通り越して柔らかい机の木の板に文字を残している。車の窓を開けるとすぐに埃が舞い込んできた。「あなたはわたしの横に座って、そう前で運転している友達 のことなど気にもせずに、わたしたち密かに笑い合った」あなたは薄くて小さなノートパッドを取り出して詩を書いた。「わたしの真似をしたんだったよね。ばらというタイトルの詩、その前にはあなたが自分の彼女に宛てた詩。彼女は女で、わたしはただの道ばたのばらだって」あなたはそう書いていた。とりたてて美しくもない一輪のばら。椅子をぎっと引き下げて立ち上がる。天井が少しだけ近くなりわたしの体温を上げる。冷蔵庫にあるものにはあまりいつも興味が無くて、わたしは買い物のことを考える。スーパーマーケットに並んだ小さなスパイスの瓶を片端からかごに入れる様子。わたしの母がよくやったようなちょっとした気まぐれなふり。わたしはあの時あの場所にあったマーケットを思い出す。カートは広く重くいつも赤のプラスチックの持ち手がついていて、わたしは一人で押すことができなかった。だからあなたをいつも呼んだ。「僕は一輪のばらに目を留めた、とあなたは書いていたね。そしてばらはいつもサボテンだった」わたしたちはそれをカクタスと呼んでいた。もっと陽気さのない調子で、カクタス。水分の無い響き、乾いた名前。マーケットにも一枚ずつにちぎられたそれが売られていた。2ドル、3ドル、忘れた。「傲慢だね、贅沢だね、非・論理的だね、とあなたに言われました」どうしてだかわたしは嬉しくなった。運転席のシートを後ろからがっしり掴んで、運転者を脅かした。それほどの喜び。”We were on the car driving through the road lined with cacti on either side, back then.” This is my house in a suburb with no sun lights and I am sitting before the desk writing on a paper once balled up and smoothed out in a second thought. Inside room is parky. Not cold, just parky. My barefoot touches the whisker of my cat lying all out under the chair. The pen is hard and thin, and leaving the traces of words on a soft wooden desk board. When I opened the rear window dusts wafted in through. “You were sitting next to me, and didn’t to even care of a friend who was driving for us, we shared laughter secretly.” Bringing out a thin, palm sized notepad, you worked on poems. “You copied what I was doing. A piece titled a rose, and another for your girlfriend She was a woman and I was a only wild rose.” You wrote. A single rose not particularly beautiful. I pushed back the chair with a squeak and get up. The ceiling approaches a little bit closer and raises my body heat. I don’t really care what’s inside of the fridge and start wandering about shopping. A certain act of sweeping a line of canned spices off into a shopping cart. A bit of caprice like my mother used to fake. It reminds me of a supermarket there back then. The carts is huge and heavy, always with a red plastic handle and I couldn’t push them by myself. So I called you every time. “I laid my eyes on a single rose, you wrote. And the rose was always a cactus.” We said cactus, a lot. With a tone without any cheer, cactus. The sound of waterlessness, a dried name. They were sold in supermarkets, teared in pieces. $2, $3, I forgot. .”You are arrogant, prodigal, illogical, you have told me.” Somehow I was pleased. I clasped the drivers seat tight from the back and terrified him. That much of joy.

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家は今わたしの鼓動に合わせて大きく揺れている。The house is now shaking along with my heartbeat. そこで一つ猫のあくび。Then a big yawn of the cat.

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あなたはそれからすぐに笑顔で空港を後にしてわたしは一人で車を走らせて海辺の町のモーテルのバスタブで本を読んでそれから陶芸に没頭した。映画の授業をたくさん休んだ。堅くて冷たい粘土で手のひらの皮膚が破れた。友達の犬に髪を噛まれて一晩だけ泣いた。わたしには狐がいなかったし近くに飛行機も落ちてこなかった。わたしはそのままにカクタスを齧る。指にとげが突き刺さる。そのまま唇を破いてしまう。そしてわたしの舌は紅く腫れあがり、喜びに顔を高揚させてわたしは鏡の前に立つ。わたしの顔、紅く紅く紅く紅い顔と舌と血と指先が鏡の銀色に溶ける。呼吸が少し早くなりわたしは少しだけあなたの顔を思い出す。 それは丸で透明で思想を一旦平らにしてしまったようだ。これは顔ではない。あっという間の出来事だった。
Then soon after you left the airport with a big file and I drove off to a seaside town and read a book in a bathtub of a motel room and was involved in ceramic art. Skipped a bunch of film classes. The hard and cold clay ripped my soft skin on my hands.  My hairs got bit by a dog my friend kept and I cried for a night. No foxes were around me and airplanes never crashed down in my area. I bite on cactus. Thorns run through my fingers. They tear up my lips. My tongue becomes red and swollen, and in joy I feel elated and stand in front of the mirror. My face, so red, red, red my tongue my blood and the fingers swirls into the silver of the glass. I feel my breathing quickens I vaguely remember your face. It is circular and transparent and something like a once flattened philosophy. This is not a face. It happened all at once.

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【Dear universe, I have read and interpreted things just too hard. Universe?】

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“I was slightly bemused by the light.” “Why?” “It’s like snowing, snowballs, icicles.” “Those lights are?” “Yes.”

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“And here we are.” “Whoa.”

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日記 5/21/2012

わたしはしょっちゅう、どうしようも無いほど夢を見ます。夢を見るたびにわたしは無力で、まったく自分に対する支配力が無いんだと意識させられます。でもいつも思うのは、夢でも現実でも、結局自分の意志というものは、うまく機能しないんじゃないかと言うこと。そしてそれと同時に夢も現実もわたしの考え一つで如何様にも変容してしまうのではとも思う。もはや「わたし」と「他者」との境目がぼやけて消え去ってしまうぎりぎりの感覚。わたしが手を伸ばすとあなたがその花に触れている、というような。例えば河合隼雄先生はこんなようなことを言っていました。【村上春樹の小説に、ステージの上でろうそくの火に自分の手をかざし、焼いてしまう男がいる。観客はそれを見て悲鳴を上げる。それはなぜか?なぜ?焼けているのは男の手で、あなたの手ではない。じりじりと焼けているのは男の手なので、あなたの手は痛みを感じない。それでもあなたは悲鳴をあげる。あなたがまるで自分の手に痛みを感じたかのように。】こんなようなことを言っていた。書いていた。わたしはそれでまた思い出すことができました。なぜ、書くのか。なぜ、読むのか。なぜ。あなたがわたしの目の前で美味しそうにパスタをすする。わたしのお腹が鳴り、わたしが笑顔になる。わたしが大きな声を出し、涙をわんわん流し、一本の木に激突する。それを見ているあなたの心が、一瞬にして張り裂ける。【わたしは無力で、あなたも無力で、わたしは幸福で、そしてあなたも幸福になれる】わたしたちはこんなにも繋がっている。さて、わたしたちは池の上で泳いでいる。そこにはわたしもあなたもあなたたちも居る。わたしたちはばらばらで、わたしたちはそれぞれだ。あるときふと、息を止めることを思いつく。【息を止めること、それは死に近い】そして我々は水の底に潜る。息をすることを忘れて、生きるということを忘れて。その中で、我々は我々であることをやめる。我々は、わたし、あなた、わたしたち、であることを放棄する。我々は、ただの存在になる。大きな水の中で、小さな身体が解ける。手も脚も指の爪も、髪の毛の切れ端もすべてそこから散り散りになって、我々は細胞の一粒一粒で互いを抱きしめる。

今日見た夢は、いつもとたいてい同じようなものでした。わたしは夢の中で、「ゲイの男」でいます。男が好きな、男のわたしは、とても男らしく男を愛する。わたしと彼は、カウチにだらりと身体を預けたまま、粒子の走る画面で古い映画を見ていた。わたしは彼を愛している。彼はわたしの隣で泣きそうな顔をしている。彼が心細いのがわたしにはわかる。そしてわたしは彼を慰めることができる。わたしはそれを、画面の向こう側から見ている。無力さを感じながら。そこでちょっと首を傾げてしまいました、今。「無力さを感じる」という言葉はなんだか変な気がしませんか。無力ってなんだろう。力がない状態、自分の力が目に見えない状態、力が感じられない状態を感じる。何もできない悲しみを、こんなにも悲しみとして感じてしまう。我々はこんなにも、「感じる」ことから逃げ出すことができないのでしょうか。わたしは無いものを「強く感じる」ことができる。わたしにはできる、感じることが。できる、力がある、感じる力がある、無の力を、力が無い、無が、感じることが。わたしはこういうとき少し、息苦しくなります。息苦しいこと、それは少し死に近い。わたしは潜っているのでしょうか。あなたと、わたしが、一体になれるように。わたしは潜っているのでしょうか、わたしを失う瞬間を、得るために。わたしがわたし、というと、わたしがそこに現れてしまう。わたし、わたし、わたし。○としての、△としての、わたし。光るダイアモンドとしてのわたし。一枚の花びらの、かけた中国皿のわたし。わたしがわたしと言っている。【わたしはあなたではない、でもあなたはわたしだ、そういうことにいつも苦しめられている】だからわたしはわたしであることをやめて、あなたになりたい。あなたになって、あなたを内側から壊して、骨を叩いて肉を削って細い太い血管を一筋ずつ撫でてあげる。わたしはあなたが好きだ。あなたはわたしだ。わたしはあなただ。わたしはわたしたちを愛している。わたしたちはわたしたちを。

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わたしの聴く音楽は以下のようなもの:
パンの袋
こめかみを叩く音
空に上がる光の球
お湯がもう沸騰している
ガラス越しにあなたを見た
あなたはわたしに気づかない
あなたの顔はあなたの顔でないのかもしれない
こちら側のわたしは隣の人が走らせる鉛筆の音で眠ることができない
わたしの聴く音楽は以上のようなもの
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わたしはこの前、魚のうろこを見ました。母が鯵を三匹買ってくれたので、わたしは初めて包丁を使ってそれらの内蔵を取り出しました。二匹には子どもがいて、一匹はなにも持っていませんでした。魚の身体を押した。左の指先を使って強く下に押した。それは跳ね返ってきた、わたしの指を押し返した、愛する男の筋肉みたいに力強かった。柔らかくて堅い身体を、わたしは包丁の先ですっと突き刺した。何ごとも起こらなかった。魚の肺を取り出した。魚の肺、わたしは少し呼吸を荒げて、自分の肺を意識した。いつでも大切に思っている、一対の肺です。わたしは肺がないと生きられない、肺はいつもわたしの言う通りに動いてはくれない、肺はわたしに指示する、肺がわたしに命令を下す、肺は言う、「あなたは今混乱している」「あなたは今悲しんでいる」「あなたは今すぐそれをやめたほうがいい」「手遅れになる前に落ち着いた方がいい」「落ち着いて、お願いだから落ち着いて」「大丈夫だから、大丈夫だよ」「大丈夫だよ」肺はわたしに語りかける、時に優しく、時に怒った口調で、わたしにあれこれ言いたがる。魚の小さな肺はとても静かでした。わたしはそれを鋭い包丁でくり出した。小豆色で、光っていた。それは肺ではないのかもしれない。わたしにはそれがよくわからない。それはずいぶん柔らかかった。口に含もうとして、やめた。鯵はフライパンの上で焼かれ、大根おろしとポン酢で食べられた。

夢の中でわたしは、シーツを頭から被っていました。薄い緑色で、透けて見える布の中でわたしは、怒った顔をしたり、わざとふざけてみせたり、涙が止まらなかったりを繰り返していました。その度にわたしの身体は上下左右に動いていた。わたしは踊りを踊っていた。あなたはそれを見て何かを感じたに違いない。わたしはとても上手に舞っていた、そしてベッドから飛び降りて絨毯に突っ伏しそのまま寝てしまう、息をしなくなる、誰かの拍手が聴こえる、観客がいた。わたしはそれを知らなかった。あなたが指を突き立ててシーツを剥がそうとする。わたしはそれも知らなかった。隣の人がたてる、シューッという音がとても怖い。どうしてそんな音が鳴るんだろうか。どこからその音はやってくるのだろうか、わたしのどの器官をどのように、どのくらいの時間をかけて辿りわたしにそれを感じさせるのだろうか、感覚。恐怖の感覚。ただの音がわたしに影響する。例えばわたしは大きく息を吐いてしまう。それはため息に聞こえる。わたしは呼吸がうまくないので、定期的に大きく息を吐き出さないと頭がくらくらする。だからわたしがハアっと大きく音を出すと、あなたに何かを告げてしまう。わたしとあなたは繋がっているから、わたしとあなたはわたしたちだから、わたしが呼吸するとあなたはその音を聞く。わたしとあなたは深い水の底に潜り全てを失って全てを手に入れる。これが夢だと気づくまで。

【できることならわたしだって見下ろしたくない】

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群衆 mobs

髪が裸なのでとても怖い、ときみが言う、ここは洞窟で暗くて一つの水たまりみたいな池がある。きみの髪はきみの背中にぴたりと張りついてきみは首を動かすことができない。きみは目を大きく開いて池の底をのぞく。微動すらせず。髪が一度音をたてる。きみはそれに酷く驚いてそのまま駆け出して行った。洞窟から。きみは怖い怖いと言いながら木に抱きつきそこから離れようとしない。きみの顔と首と頭は髪に固定されたまま、肺だけが大きく膨らんできみの身体を迫り上げる。木の枝が近づいてくる木の枝が目の前に来る木の枝を追い越してきみは木の上にそそり立つ。木はきみよりも低い位置で静かに震えている。木は裸じゃない、木は一人じゃない、木は子どもたちに覆われているそれは葉だ。きみは背中に手をやり髪の毛を少しだけ剥がし、それから首を下に傾ける。きみがそこで見るもの、毛に包まれている木、それは葉、ああきみはそれを見てしまう。「木にも髪型がある!!!!」きみは叫ぶ、声にならない驚きを無理矢理言葉にして吐き出す、きみは。今は池の底に沈んでしまったきみがこちらを見ているのがわかる。水の下からこちらを見上げて言葉が泡になる。一・二・三と泡が立ち上ってくる。きみの肺はすでに潰れている。きみの髪は今やきみからすっかり別離して切断された花束のように水面に浮かんでいる。切り離された言葉・髪・花が一体になってぼくに伝えてくるこれはなんだ?あの音はなんだ?髪のたてた音がこだまする。それらはもはや誰のものでもなく、静かにここで流れているのだ。ぼくはそれが、とても怖い。


I’m so scared, the hairs are all naked, you said, here is a cave, too dark, and with a pond like a puddle. Your hairs got stuck to your back and you cannot move your neck. You widen your eyes and stare down the bottom of the pond. Without moving a muscle. Hairs make noise once. Astound by it you start rushing out. From a cave. I’m so scared so scared you said and press yourself against a tree and never draw away from it. Your face/neck/head anchored in your hair, only the lungs swell out, they carry you high carry you up. Tree branches approaching, tree branches in your eyes tree branches you pass by you tower high above the tree. Now lower, the tree shivers voiceless. Tree is not naked, tree is not alone, tree is covered by its kids, they’re leaves. You reach out your hand and peel off a small thread of hair from your back, then lower your eyes. Things you see down there: the tree wrapped by its hair, they’re leaves, ah you see them. “The tree’s got a hairstyle!!!!” You cry out, press the voiceless startles into words, forcing them out, spitting, you. Now in the bottom of the pond you go down, looking over me. Looking up from under the water, words become bubbles. One/two/three the bubbles trickle slowly upward. Your lungs are collapsed already. Your hairs are all departed floating on the water surface like amputated flowers. Words/hair/flowers all divorced from you, these teaming up and delivering messages and what is this at all? What is the sound? The noise hair’s made is echoing. It is no longer anybody’s, it is flowing here, quiet. I am so, scared of it.

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toodles

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鳥がけっこう飛んでるね
うん?
ほら鳩だ

There’s quite a few birds in the sky.
Yeah?
There, pigeons.

風が川のように目の前を流れていく

Wind streaming through like river, before my eyes.

椅子の上に座って待つ。

Sitting on a chair, I wait.

これはみんなのものだよ、みんなの鳥だ
わたしの分もあるんだ
きみの分もある

They’re everyone’s, birds for all people.
So there’s my share.
There is your share.

懐かしい気持ちを共有する
机の傷が指の皮膚にあたる
ひっかかってそこが破れる
血を使って書いた
「あした会いにいく」

We share the nostalgic feelings.
Skin on the fingers touch table scars.
Scratch the skin, and the skin is ripped
With blood I wrote:
“going to see you tomorrow”

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誰も聞いていないのを良いことに僕はひとりこう言った。「俺はあの人を愛しているのかもしれない。でもだからってそれが何になるんだ」キッチンで洗い物をしていた。スポンジが気泡をつくり空気にそれらが浮かんだ。一つの気泡が頬に近づいてくる。僕はそれから逃げた。「愛しているのにうまく好きになれない」僕はレンジローバーが好きだし、ボストン・セルティックスが好きだ。ヤーヤーヤーズの女の声が好きだし、線香の匂いが好きだ。子どもなら男の子が好きだし花なら枯れたやつが好きだ。誰も聞いていない、誰もこれを聞いていない。「でもそれが良いことなのかはよくわからない」食器の水をすべて切ると僕はカウチに戻って雑誌の束を手前によせる。傍にあった鋏で一つずつ大きな文字を切り取っていく。「今」「は」「誰」「も」「何」「も」「君」「に」「期」「待」「し」「て」—— そこまで切って手が腫れたのでやめた。洗剤とお湯でふやけていた指の皮が破れた。僕はいつも検索する。あの人ではなく、別の女を。その女の職業を打ち込み、その女の名前、愛称、出身地、次々と手だてを変えて僕はその女について調べる、その女のことを知る。「俺はその女が気になる。でもその女が嫌いだ。いいかげん構わないでほしいと、いつも思う」その女はカタカナで呼ばれたりローマ字で呼ばれたり、フルネームの重々しい漢字で呼ばれたりする。山になった雑誌が僕の足下に一冊ずつずり落ちる。雑誌一冊分の重さ。「たくさんの言葉で重くなった紙の束」どうして僕はそれを口に出すのか、どうして僕は一人でここにいるのか。僕は焼いたトマトが好きだ、雪の写真が好きだ、ペーパーバックの触感が、アスパラを茹でた蒸気が顔にかかる、壁にかかった額縁がずれる、インクが布に染みる、髪が燃える目が止まる血が揺れる火が溶ける、誰かがドアをノックする。

僕は後ろを振り返る。

そこにはあの人が立っていて、それはすでに別の女で、職業もすべて取り替えて名前の表記も髪の結びかたも人からの好かれかたもすべてのプロフィールを交換してしまって、僕が愛していた人はもうどこにもいなくなってしまって、別の女が僕の名前を呼ぶ、

「———」

でもそれは僕の名前ではない。


Since nobody is hearing me I said like this: “I may love that person. But what’s the use of it?” In the kitchen, I was washing dishes. Sponge made bubbles and they floated in the air. A bubble came to my cheek. I escaped from it. “I love her but I cannot like her” I like range rover, I like Boston Celtics. I like the voice of the woman in Yeah Yeah Yeahs, I like the scent of funeral incense. If it’s about children I like boys and if it’s about flowers I like the ones dead. Nobody hears, nobody hears this. “But I’m not sure what’s good about this” Drained off the water from the dishes, I went back to couch and draw a bunch of magazines close to me. With a scissors sat there I started to cut out each words from them. “Now” “no” “body” “wants” “anything” “from” “y”—— then stopped since my hands were sore. Fingers wrinkly with detergent and hot water, the skin ripped. I always google search. Google, not her, but the other woman. I punch in the letters of her occupation, her name, her nickname, hometown; after another, with different letters I search for her, I get to know her. “I’m interested in her. But I dislike her. Wish she won’t bother me anymore” That woman, her name is written in Katakana, in alphabet, in full with heavy Kanjis, many other ways. From the pile, magazines slipped over to my feet. Feel the weight of a book of magazine. “a bunch of papers, dragging with too many letters” Why do I have to utter this, why do I have to be alone. I like baked tomatoes, I like pictures of snow, the feel of paperbacks, I boil asparagus, and feel the steam from a pot over my face, frames on the wall are tilted, inks bleed on a cloth, hairs burn eyes stop bloods shake fires melt, somebody knocks on my door.

I turn back.

There stand that person, but already she turns to that woman, they have exchanged the profiles, occupations, the names, the signatures, the ways to do hair, the ways how people like them, so and so, the woman I loved has gone, nowhere to be seen, then the other woman calls my name,

“———”

But it is not my name.

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toodles

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【Broken cam: Konica Big Mini 301】

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Dead flowers’ crying and the universe is all soaked.

【I don’t know who’s who anymore, but people are talking about a game and the universe.】
Hey, its a game of confidence, she stuck her nose into red flowers and she smelled nothing. Only she glimpsed the edge of the universe. What universe? This universe that you hold in your arms, the flowers and their colors. White, blue, and green, no red? No red. How many universe? Nobody counts the universe. But flowers? 804. And 5 of them are dead. Aren’t all the flowers picked supposed to be dead? It’s how you see them. How did she see them? She didn’t see, she just smelled nothing and glimpsed the edge of the universe. How did she glimpse the edge of the universe? Out of the corner of her left eye. Were there any tears? Tears? What tears? They are like rain drops, or a water fall, from people’s eyes. What about animals, do they have tears? Could have, or I don’t know. Tears are warm. Neither hot nor cold. Just lukewarm. Like the touch of my skin? Your feet are warm, I know. They are covered by 6 layered socks. Silk and cotton and thick wool socks. Those with toes. How can you feel others’ skin? How can you get into their shirts and pants? You have to love them first. Love them like an apple, though sour, you bite, but you still feel some sweetness. Can I see your mouth? I mean, inside of your mouth? Why? I thought I might find some tears or something. Inside of my mouth? Yes. I don’t have any tears. But animals do, now that I think about it… What about flowers? Do they have tears? Do they? Those flowers still alive? Not picked yet and held in your arms? I’ve never seen any flowers alive. I just see them cut and dead. Amputated already, stocked in florists. But can you at least imagine? Flowers crying in fields and parks and gardens, all at once, like a rainy day, so misty, so cool, so warm at the same time. The colors of red, yellow, pink, orange, purple, blue, white, all at once crying, losing their colors, making all so transparent. What about her? Did you forget about her already? And the game of confidence? What confidence? As in secret. Confidence as in secret. Do you? Do I what? Do you play the game? The game of what?  The game of confidence, the game of love, the game of tears and the game of flowers. I only play the game of universe. Oh? Oh. Like watering universe with the tears of flowers. And see it wet. The universe soaked. Do you see the universe from your world? Do you see the world from your universe? Do you belong? Do you retire? Do you play any game at all? Hey I can see tears in your eyes.


【誰が誰だかはもはや分からない、ただ人々がゲームと宇宙について話しているのだ。】
なあ、これは”ゲーム・オブ・コンフィデンス”なんだ、彼女は鼻を赤い花のなかに突っ込んで、何の匂いも感じなかった。ただ宇宙のはじっこを垣間みただけ。宇宙って?この宇宙だよ、あんたがその腕の中に抱えてる、花そしてその色たち。白、青、緑、赤はないの?赤はない。いくつの宇宙?誰も宇宙は数えない。でも花は?804本。そのうちの5本は死んだ花だ。摘まれた花って、どれも死んでるんじゃないの?それは見方による。彼女はどう見たの?彼女は見てない、ただ何の匂いも感じずに宇宙のはじっこを垣間みただけ。どうやって宇宙のはじっこを垣間みたのさ?左の目の端で。涙は流してた?涙は?涙って何だ?雨粒みたいなやつだよ、それか滝みたいな、人間の目から出てくるやつ。動物は?動物は涙を持ってるかな?たぶん、いや分からない。涙はあったかいんだ。熱くも冷たくもない。ただ生ぬるい。僕の肌の感触みたいに?あんたの足はあったかい、それは知ってる。6枚の靴下に覆われてる。絹と麻と分厚いウールの靴下。指先が分かれてるやつ。他の人の肌に触れるにはどうしたらいい?他の人のシャツやパンツに潜り込むには?先に彼らを愛さなきゃならない。林檎みたいに彼らを愛するんだ、酸っぱくても、齧る、それでも甘さを感じられる。きみの口見せてくれる?きみの口の中。何で?涙かなんかが見つかるかなと思ったんだ。俺の口の中に?そう。俺は涙を持ってない。でも動物は持ってる、今になって考えてみれば… 花は?花は涙を持ってる?持ってるかな?まだ生きてる花は?まだ摘まれてきみの腕の中にいないやつ。生きてる花は見たことない。切られて死んだやつしかない。すでに切断されて花屋に置いてある。でも少しは想像できない?草原や公園や庭で花たちが一斉に泣いていて、それはまるで雨の日みたいで、霧っぽくて、冷たくて、でも同時にあったかくて。赤や黄色やピンクやオレンジや紫、青、白の色が一斉に泣いていて、色を失って、全てが透明になる彼女はどうだろう?彼女のことはもう忘れちゃった?それに”ゲーム・オブ・コンフィデンス”のことも?コンフィデンスって何だよ?秘密って意味の。秘密って意味のコンフィデンスだよ。そうなの?そうって何だ?ゲームをするの?何のゲームだ?コンフィデンスのゲーム、愛のゲーム、涙のゲーム、花のゲーム。俺は宇宙のゲームしかしない。そう?そう。花の涙で宇宙に水をやるんだ。そして宇宙が濡れるのを見る。ずぶぬれの宇宙。あんたの世界から宇宙が見える?あんたの宇宙から世界が見える?あんたはいるべき所にいるのか?それとも出て行ったのか?それに何か、ゲームってものをするのかい?ねえ、きみの目の中に涙が見えるよ。

【YOU DON’T WANNA SAY ANYTHING, NO YOU DON’T YOU DON’T】

Miranda Sensorex 35mm

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だれかがしゃべっている

いつのまにか夜になったので、誰かが少しだけ語りはじめるのだけれど、そこに居合わせていたのはわたしの知らない人たちばかりだった。

【そりゃあ大変具合がわるいですよ、追わなきゃならんです、ここに独りでいるのはいつだってそら恐ろしく不確かで、いつのまにか紛れてしまいますからね。そう言ってわれわれは何かのあとをついて夜をまたいでいく、夜をまたいでいく】

【茶碗に触るようにわたしにフれて欲しいの、この、表面にはなにも付いていないみたいな、無みたいなものを感じてほしいの、指の細胞がすこしだけ崩れてわたしの顔にしみ込む。中華料理屋の皿が4枚、欠けている】

【何か美しいものが何か普遍的なものを少しだけ汚しているところ】

【ここは孤独なところです、自分の顔を見ればいつだってそれがわかります、あなただってほら、自分の腕を捻りぐっと肘で顔に触れてみれば自分とは思えないような表情を骨の上に感じることになります。骨は鋭く冷たい。わたしは一度も地面に足を触れたことが無い】

【あとから吊るものはいつでも闇に拮抗する】

【数少ないものたちが始める会話を聞く】

【誰かに確かめてもらいたいんです、これが決してわたしではないと、わたしがわたしを視ているのではないと、掌ににぎりしめているものが空気だけではない、それだけですべてが証明されるようなうまい現実みたいなものが、そこに転がっているのではないと】

【区別をすべきでない瞬間に、わたしが立ち止まって調べるもの】

【しみが多いようですが、何一つ問題なんてありませんよ。世界は宇宙と同じではないんです、われわれが視ることができるのはこのような景色】

【鳥が一羽夢の中で飛んでいるけれど彼にはその翼がうまく感じられない、だから怖い】

【間違いなくここから外れることもできるし、寄り添うこともできる、夜になればいつだって誰とでもない誰にでも誰かと誰とも無く居続けることができる、夜。警笛が鳴り、夜が、誰?誰?誰?とあなたを訪ねてくる。あなたはただそのドアをあけ夜を静かに招き入れる】

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日記 2/25/2012

【我々はよく歩く】CONTAX 3A

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知らしめ小僧の短い物語

裕実子さんもおそらく知らしめ小僧についてはすでにお聞きと思いますが、やはり充分に注意するにこしたことないです。と彼女が突然言った。わたしの部屋のソファに深く沈み込んでふいっとため息をつき、指を組んで折り曲げた左脚を抱いた。靴下で丸くふちどられたつま先を上下に動かしているのが気になってわたしは言われたことについてしばらく考えられなかった。知らしめ小僧知らないんですか?もしかしたらと思ったけど、やっぱりテレビとか観ないんですね。困ったなあ。彼女は脚を胸に引き寄せたままこちらに身を乗り出した。ねえ、結構あぶないんですよ、みんな被害に遭ってます、わたしの知ってる編集者もこの前言ってました、やられたって、全部知られてたって。つまりこう言うことです。知らしめ小僧は何だって知ってるんです、何だってっていうのはつまりすべてってことですよ。小僧はすべて知っている。知られたくなくて隠している過去も、自分が忘れてしまった過去も、失くした眼鏡ケースのありかも、昨日なぜだろうと首を傾げた苦い紅茶にティーバッグが2個使われていたこととかも、全部ですよ、こわいですよ、これは。編集者は自分が担当している小説家が今まで出した作品すべてがウェールズ語で書かれた民話を翻訳したものにすぎないことをおとといの夜、知らしめられたんです。知らないほうが良かったんですよ、もちろん。だってその小説家だって、自分が書いている作品が剽窃だなんて当然知らなかったんですもの。知らないことが多すぎるんです、だから良いんです、だから安心して我々はこの情報が激流のように落ちてくる世界で生きてられる。そう、つまりその小説家はたまたま自分の書いた作品がウェールズの民話とすべて一致していた、それを知ってしまった。知ってしまったので編集者に涙ながらに訴えた、わたしは泥棒だ泥棒だオリジナリティのかけらも無いウェールズを搾取しているだけのしがない50男だってね。知らしめ小僧ですよ、もちろん。そんなのふつうわからないんです、ふつうに生活してたらね。そこで彼女はソファから身を起こしてゆっくりと立ち上がり、脛をコーヒーテーブルにがつんとぶつけながら、ちょっとトイレです、と言って消えていった。皿に山のように盛っていた焼きててのバナナクッキーが崩れてこぼれだし一枚が床に落ちた。赤ワインが入った紙コップが二つとも倒れ、コーヒーテーブルに池を作り、何枚かのクッキーを浸した。わたしはそこでようやく知らしめ小僧なるものについて考えはじめた。知らしめ小僧と呼ばれる人物(またはキャラクター?モンスター?)がいること。彼(または彼女?またはそれ?)は最近メディアに取り扱われるほどに世間で騒ぎを巻き起こしていること。知らしめ小僧は何だって知っている、そしてその何だって知っているということが周りに迷惑(というよりも多大な精神的/経済的損害?)をおよぼしていること。そして知らしめ小僧はわたしたちの身近(つまり今日ここに遊びにきているわたしの後輩の知り合いの編集者といったレベル)でも問題を起こしていること。後輩はどうやら知らしめ小僧を悪と考えていて、それは彼女だけにとどまらないだろうこと。そこまで考えていたらようやく後輩がリビングに戻ってきてコーヒーテーブルの惨事には目もくれずソファにぽすんと腰をおろした。その様を見てようやくわたしは後輩に悪意を感じていることに気づいた。すぐにテーブルの始末をしなかったのは、彼女にこれを見せてやろうと思ってのことだったのだ。自分でも気づいていなかったのだが、テーブルを片付けないということで何らかのメッセージを彼女に伝えようとしたのである。後輩は40にもなって恋人がいたことがない、そしてそれをいつも嬉しそうにわたしに話してくる。ちなみに後輩といえども彼女はわたしより12も年上で、わたしより良い大学を出て良い会社に勤めて(というよりわたしには勤め先がない)わたしより文学やら語学やら翻訳やらひいてはアンダーグラウンドカルチャーからハイファッションにいたる幅広い知識があるのにも関わらずわたしのことを裕実子さんまたは先輩と呼ぶ。今までどういうわけだかその理由について考えたことは無かったのだが、今夜こそは考えてやろうとわたしは心に誓った。わたしは人前ではなかなかうまく考えることができないので、彼女が帰った後、バスタブの中でぼんやりしながら、もしくはベッドに伸びて天井を見つめている際にようやく実行することができるだろう。後輩(今ではこう呼ぶのもなんだか気味が悪くなってきた)はワインボトルに手を伸ばしコルクをくいと引き抜くと血しぶきみたいなワインのしずくをいくつかカーペットに落としながら、倒れた紙コップを手に取りワインを注いだ。そして一口飲むと再び話しだした。いいですか、先輩、知らしめ小僧が知ってることは、なんでも【傍点四字】なんです。なんでも。例えばなんて言ってもきりがないみたいだけど、例えばわたしの親指の爪の形が1ミリだけ大きいことでわたしの親友の爪の形よりよく見えるということや、それを彼女が知っていてわたしのことをこっそり憎んでいるとか、キャベツの芯はじっくり煮ると甘みが増すのに先輩はそれが嫌いだとかそう言ったことですよ。わたしの身体の中を駆け巡っている血は先輩の身体を駆け巡っている血よりバーガンディよりだとかね。悪ですよ、そんなの。知らないほうが良いに決まってるし、第一なんだか失礼でしょう、そんなことを知っている【傍点五字】だなんて。そこまで言うとこの年上の後輩は紙コップに紅を引かない唇をぐいと押しつけ、残りのワインをごぼごぼ飲み干すとそのまま身体中から血を噴きだしはじめた。ちょっとちょっとちょっと、とわたしが言ってももはや彼女は聞いていない。口からも目からも耳からも中途半端な勢いでぱしゃぱしゃと血を出し続けている。わたしはふと、これも知らしめ小僧のせいなのだろうかと考えた。さっき彼女が言っていたように、彼女の血がわたしの血よりもバーガンディだと知らせるために?そのうちにわたしは怒りを感じてきた。彼女が今臆面も無く噴きだしているのはわたしの血でもなくわたしの父の血でもなくわたしの3年間つきあっている恋人の血でもなく前世のわたしの血でもなく未来のわたしの血でもない、彼女自身の血なのだ。彼女だけの、彼女の身体だけにしっかりとおさまっているべき血なのだ、ああなんて傲慢なんだろう、とわたしは思った。こういう場所で、わたしの唯一の居場所であるこの場所でこういうものをさらけ出してしまえるなんて。わたしはなんだか投げやりな気分になって、そのまま哀しみを胸に抱えたままタブにお湯を張り、何も考えずに10分だけ浸かったあと、ベッドに横になりサイドテーブルにあるランプの紐を引いて灯りを落とした。リビングから他人の血がじゅんじゅんと流れ出る音が聞こえている。

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トム・ウェイツみたいな

都内にある喫茶店の二階に席を見つけて紅茶を飲んでいると、足下からバイオリンが震えるみたいな不思議な音が聞こえるのに気づいた。それは音ではなくて振動だったのかもしれない、定期的に椅子の脚から這い上がってくるぶーんという、象の鳴き声のような凍えた犬みたいなマイクにもたれながら歌うトム・ウェイツの喉元みたいな低く哀しい震えが感じられる。今もまた、ほら。

「わたしはどうやら時間をかけすぎてしまった」と隣のテーブルに座っている男が妻だと考えられる距離に身体を寄せている女に話しかけていた。彼は眼鏡を外してテーブルに置かれた分厚い本の上に載せると、右手を持ち上げて目の辺りをこすった。「すっかり忘れていたと言えばそうかもしれないが、おそらく意図を持って先延ばしにしていたんだと思う」それから手を額に移動してうなだれた頭を支えた。女は男との距離を全く変えずに彼の顔を見上げた。そうするまでわたしは彼女が膝の上に開かれた本を読んでいたことに気づかなかった。彼女の本は大きく薄く、絵本かと思えたがそこには小さな文字列がびっしりと並んでいるだけで何も描かれていなかった。ぼんやりと彼女の膝のあたりを見つめていると、自分のテーブルの上に置いていた携帯電話がぶるぶると震えた。そこでわたしは先ほどまでずっと気になっていたバイオリンのような振動を意識していないことに気づいた。1,2,3,4,5,6,7…..15秒ごとにきっちりと床のタイルをふるわせ木の椅子の脚を這い上がりわたしの身体を揺すぶる不思議な、何か。わたしは携帯電話を出損なった。「きみを傷つけるとか傷つけないとかそういう問題ではなかった。きみのことを考えてはいなかったんだと思う。このことについてはわたしは完璧にわたし自身のものだという自覚があったから。たとえば車の保険料がかさむから別の会社を探そうとか明日ゴルフに行ってそのまま後輩たちと飲むから夕飯はいらないとか、そういったことはわたしたち二人のことだと思うからもちろんきみに言う。でもこれは完全にきみとは関係がなくてわたしの中だけで発現したことで、たとえこれをきみに伝えたとしてもきみは何も変わらないだろうということがわたしにはわかっていた。変わるならわたしだ、変わることがあるならわたしにまつわることだけだ、とわたしは考えていたんだ」床下から伝わる何かについてわたしはもう少し考えてみようと思った。それはいびきかもしれない、とわたしは思った。わたしたちはみんな気づかないうちにとてもとても小さくなっていて、ジェニーちゃんとかシルバニアファミリーとかそういった子供の玩具の一部になっていてこの喫茶店もそれら人形のためのミニチュアにすぎずわたしたちはどういうわけか知らないうちに誰か子供の手によって綿密にここに配置され、そこは彼女/彼の部屋、いつのまにか夜になっていてその子はベッドに入り母親のキスをおでこに受け取り眠りについた、天上には昼間のうちにベッドの弾性を利用した跳躍により貼付けた蛍光塗料が塗られた星々がきらめいているはずだ、それでもわたしたちはミニチュアの喫茶店のなかに配置されているので見上げても見えるのは作り物のおもちゃの天上、精巧につくられた換気扇、エアコン、何種類かのランプ、警報機。子供は規則的に寝息をたてている、はじめはすやすやと甘いミルクみたいな空気を吐き出している、しだいに深く深くどこかに落ち込み、おそらくジュラ紀にいて大きな大きな羊歯の葉をかき分け恐竜ごっこをしている、もしくは宇宙に散らばる惑星を一つ自分のものにしてそこにかわいらしい桃色の城を建て、最上階の一番大きな窓についたバルコニーに自分を立たせ大好きなあの男の子が迎えにくるのを待っている、いずれにせよ彼も彼女も次第に大きないびきをぐうぐうぐうぐうかくようになった、それを身をもってこのはりぼての喫茶店のなかで感じているのがわたしたち小さな人間、人形、玩具にすぎずいつのまにか偽物の世界にいる偶然の配置の結果のわたしたち。そういうことを考えていると再び携帯電話がテーブルの上で震えた。わたしは何も考えずに通話を押すと耳に持っていき何も考えずに「おお」と応答した。友人の声はいつもと変わらない音程のままどこかぼやけているようなゼリーのプールを通して聞こえてくるようなそんな音でわたしの耳に入ってきた。とても現実的だ、とわたしは思った。話している内容もしかり、この親しげな口調もしかり、わたしはこの女と友達なのだ、とわたしはただならぬ確信を持って感じていた。わたしは友達と電話をしている。電話をしているということは、つまりわたしはこの女と話している、人間と話している、人間に話しかけ人間の言葉を聞いている、そうだ、言葉を介してわたしはこの女と繋がっている、そしてこの女はわたしの友達なのだ、春夏シーズンのカタログを送りましたとわざわざ電話をくれる一度だけ会ったことのあるzuccaの店員でもなく、留守番電話があったことを知らせるわたしが想像したことすらない、けれど声から女性とだけわかるあの電話会社の人間でもなく、わたしが語りかけているのはわたしの友人である。わたしのことをよく知っているはずの、わたしに何度も会ったことのある、わたしに料理を作ってくれたことのある、長年の友である。わたしは久しぶりに現実を感じてその現実をより現実に感じようと思い、「ずいぶん現実的に感じられる、時間が、久しぶりに」と電話の相手に伝えた。

そう言った途端足下の震えがいつもより大きくなり床のいたるところに亀裂が走り壁にかけられていたコーヒーカップやらコーヒー豆やらニューヨークの通りやらの白黒写真を入れた額が少し揺れそのまま左から順番に一つずつ外れ落ち、天上から埃のように塗装のかけらが舞い降り、真ん中に大きな隙間が空いたと思ったらあっというまに崩れ落ちてきた。わたしが最後に見たのは隣に座っていた男の妻のように見える女が膝もとの本をぱたりと閉じたこと、それから夫であるかのように見える男の顔を両手ではさんだこと、そして彼女は言った「これでわたしたちずっと一緒ですべて同じね」。わたしは電話をかけてくれた友達にその礼を言い、いまちょっと取り込み中だから、と詫びて電話を切った。現実はどうやらいつもこのようにして崩れ去るみたいだ。

【無理矢理発光させることに執着する】暗闇は依然として存在している。なぜ闇は悪であるのか、なぜ光が言葉であるのか、なぜ。

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KNOWLEDGE

I am making myself a religion, she said in a room painted white and black when we were having a cup of tea with fresh baked cookies (peanut butter and macadamia nuts), the sunshine was leaking from the window on the black side of the wall. We were sitting directly on the hemp rug on the wooden floor at the very low coffee table placed in the center of the room. I smelled the sweetness of the cookies and held up the cup to taste the flavor of tea, unlikely substantial scent of bergamot, the marrowy color of red brown liquid staining the surface of the cup. I know everything, like everything around me, everything about you, everything about what you want me to say, how to behave, to act, everything people expect from me, how to look, how to hang out with them, what to talk about. I know what’s wrong with me and with my behavior, I know how you and you all think of me, how you want me to change, to fix the wrong part of me, I know I am bad, I know I am not good, I know that I am a bad person and a good person and the same time, and I know I don’t like the bad aspect of me and I know I should love the good side of myself and I know you don’t I know you do the same, I know why I like peanut butter cookies with macadamia nuts and I know you love Earl Grey tea and I know why we are sitting on a rug in this white/black room with a sunshine striking on our coffee table, very beautiful, I know what is beautiful and what is ugly, I know my small fingernails are pretty but the way my lips twisted left when I am mad is quite ugly, and I know people think I am smart and I am shy, that I am too much sometimes though I don’t show it, I know how to hide my feelings and I know when to pour them out, I know you sometimes afraid of me, of me to say harsh words in silence, that without making any sound I can curse out, like a mumble of broken harmonica, like an empty coin purse, and I know why you are here to hear me out, I know how much you can bear with me and I know the limit of it, I know when you start to feel that you want to run away from me and I know that I will feel miserable afterward, like I regret so hard about the things I told, and all and all and all but I don’t know one thing I don’t know why I do this, I don’t know why I believe in me, I don’t know why I have to be faithful to myself, why do I have to love myself the whole, though I know the whole is not at all all, the whole is always broken apart, that the whole is always split, the whole is always bad and good at the same time, that I know the whole is never the whole, but I believe in me, the wholeness of me, I have this blind faith in me, why, I don’t know, it’s the only thing, the only thing…, she then inhaled taking a long time, for more than ten seconds she was breathing the air inside of her lungs, making a strange noise, like squeaking sound of an aged machine or some kind, almost shrieking, the eyes closed and her hands folded about her chest. It felt like an hour of prayer to me, I was waiting for her to come back and I couldn’t take my eyes off of her face which was pale and red at the same time, like some reddish spots came about on her pale face, then faded away one by one, and still they made strange stains on her cheeks and the neck, it reminded me of fire works in the summer, blooming on the bluish early night sky. I was looking at her face with absolute horror, forgetting to breathe, not smelling any sweetness about the room anymore, just the face in front of me with sparks of fire. When she came back to herself (guess she was herself all the way though she wasn’t her for me, she’d never) she leisurely stretched her arm to the plate of cookies picked up one and bit, smiling, and then laughing, showing the crumbs of cookies between her teeth, like a content child. Then she said, I know you love me very much, you make me a religion, I know. She straightened her back and reached over to my face to put her arms around my neck to draw to her face and our cheeks touching feeling the warmth of each other’s skin and exchanging the temperature till we both felt the same. I let her inside of me the religion and the faith and the whole I took inside them all, to break the old religion and start anew.

わたし、自分自身を宗教にしてるんだと思う、と彼女は言った、白と黒に塗られた部屋で、焼きたてのクッキー(ピーナツバターとマカデミアナッツ)と共に紅茶を飲みながら。太陽の光は黒い壁にある窓から漏れだしていた。我々は部屋の中央に置かれたとても低いコーフィーテーブルのところで、木の床に敷かれた麻のラグに直接腰をおろしていた。僕はクッキーの甘い香りをかぎ、カップを持ち上げて紅茶を味わった、不思議なくらい実体のあるベルガモットの香り、髄のある赤っぽい茶色の液体が側面にしみをつけている。わたしは何でも知ってるの、わたしのまわりにあるものが全部わかる、あなたのこと何だって知ってる、あなたがわたしになんて言ってほしいのか、どうふるまってどう行動してほしいのか、何だって知ってる人々がわたしに何を期待してどう見えてほしいのか、どのようにつきあって欲しくて何をしゃべってほしいのか、わたしはわたしのどこがおかしいのかがわかってるし、わたしの行いのどこが間違ってるのかもわかってる、あなたや他のみんながわたしのことをどう思ってるのかも知ってるしあなたがわたしにどう変わってほしいのか、わたしの間違っている部分をどう治してほしいのかわかってる、わたしが悪いってわかってる、わたしが良くないんだってわかってる、わたしにはわかってる、わたしは悪い人間でもあるけれど良い人間でもあるって、わたしの悪い側面をわたしは嫌いだし、わたしの良い所は愛すべきだってわかってる、わたしにはあなたがわたしみたいにそれらを嫌いでそれらを愛してるってわかってる、どうしてわたしがマカデミアナッツ入りのピーナツバタークッキーを好きだってわかってるしあなたがアールグレイティーを愛しているのもわかってる、わたしは知ってるのどうしてわたしたちが日の光がコーフィーテーブルを照らすこの白と黒の部屋で敷物に腰をおろしているのかも、すごく美しい光景、わたしには何が美しいのかちゃんとわかってるし何が醜いのかもわかってる、わたしの小さな指の爪がかわいらしいのもわかってるし、わたしが怒ったときに唇が左にひんまがるのはかなり見苦しいってこともわかってる、人々がわたしのことを冴えてるけど恥ずかしがり屋だと思ってることも知ってる、わたしはそれを見せないだけでかなり過激であるということをみんなが知ってることも、気持ちを隠す方法も知っているしいつそれらを出せばいいのかもわかってる、わたしはあなたがときどきわたしに怯えてるのもわかってる、あなたはわたしが怖いと思う、わたしが音もたてずに酷い言葉を投げつけるのを、わたしが無音でこき下ろすことができることを、壊れたハーモニカみたいに、空っぽの小銭入れみたいに、それにどうしてあなたがここにいてわたしのことを聞いてくれるのかもよくわかってる、あなたがどれくらいわたしに耐えることができるか、そしてその限界を、いつあなたがわたしから逃げ出したいと思うかも、そうしたらどんなにわたしは酷い気分になるだろうか、言ったことを後悔するだろうってこと、そういうことをわたしは全部全部全部わかってるだけどわたしが唯一わからないのはどうしてわたしが自分を信仰しなくてはいけないのかってこと、どうしてわたしはわたしに敬虔であるのか、どうしてわたしはわたしの全体を愛さなくてはいけないのか、全体は全然全部ではない、ということがわかっているのにもかかわらず、全体はいつも散り散りになっているとわかっているのに、全体はいつも分裂していると、全体はいつも悪であり善であると、全体は決して全体ではないとわかっているのに、でもわたしはわたしを信奉している、わたしの全体性を、わたしは盲目的に自分を信じている、どうして、それはわからない、ただそれだけ、ただそれだけが……それから彼女は長い時間をかけて息を吸った、十秒以上のあいだ空気を肺のなかに取り入れていた、変わった音をたてて、年代物の機械のように引きつった音、ほとんど叫び声みたいな音を立てて、目は閉じられ両手は胸の前で組まれている。僕にはそれが一時間にもおよぶ祈祷のように感じられた。僕は彼女が戻ってくるのを待っていた、彼女の顔から目を離すことができなかった、青くて赤い顔、青白い顔の上に赤い斑点が浮かび上がる、そして一つずつ消えていく、頬と首の上に不思議なしみを残したまま。僕はそれを見て夏の花火を思い出した、まだ夜も若い青い空に花咲く。僕はぞっとしながら彼女の顔を見た、息をするのも忘れて、部屋中に広がる甘い香りを感じることもなく、火花が散るその顔を見ていた。彼女は彼女自身に立ち返ると(多分彼女はずっと彼女自身なのだろうが僕にとってそれは彼女なんかじゃなかった決して)おもむろに手を伸ばしクッキーの皿から一枚つまみあげて齧った、微笑みながら、そして笑い声を上げた、歯の隙間からクッキーのくずが見える、満足した子供みたいだ。それから彼女は言った、わたしわかってる、あなたはわたしのことをすごく愛してるって、わたしを宗教にしてるって、わかってる。彼女は背筋をまっすぐにすると僕の顔に手を伸ばし首に腕をからめ自分の顔に引き寄せた、我々の頬が触れ互いの皮膚の暖かみを感じそれを同じに感じられるまで体温を交換した。僕は彼女を中に入れてやった、彼女の宗教を、信仰を、そして全体を、それらすべてを僕の中に入れてやった、古い宗教をぶちこわし、あたらしいそれを始めるために。


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ちょっとした考え事

誰かが「詩とはなんでしょうね」と質問し、相手が「それを読んでいる誰かまで詩人にしてしまうものが詩だ」と答えていた。どこかで読んだんだけれども、どこで読んだのか忘れてしまった。読んでいる誰かまで詩人にしてしまうような詩。もはや書くことと読むことがその場を通して同じことのようになってしまう、そのような現場を提供する言葉の羅列。ジュリア・クリステヴァは、詩とは唯一「父の名(命令)」「法」から逃れることができる言葉だ、というようなことを言っていた。ジャック・ラカンの思想から綿々と続いているこの「言葉」と「父」と「法」の関係、それを原始の状態に止めておく、つまり「母」と「赤子」の間に存在する「言葉にならない言葉」の状態を保存することができる、それが詩である、というようなことを。頑丈で平らで統制された大地の下には形のないどろどろとしたマグマが広がっている。言葉の「元」はマグマである、それが「言葉」という「法」に統制されて確固たる大地になってしまう。詩は誰にでも読める、言葉であるから。その言語を知る者であれば、一応「読めてしまった気になる」。誰しもがその大地に立って、ぐらつくこともなく足の裏の強固な土を感じることができる。しかしその下にあるものは、全てを溶かしてしまう、全ての形を奪ってしまう、もはや形といった概念すらない、燃えるような煮立つような何かが潜んでいる、それを感じようとわたしたちは大地に耳をつける、手のひらを押しつける、それでも耳も手のひらも冷たく何の音も感じられない。そうだろうか?本当にそうだろうか?羅列された「読めてしまった気になる」言葉の連なりに今一度目を向ける。それがあなたにはいびつな模様に見えてくる。それがあなたには過去から未来から刻まれるリズムのように聞こえてくる。あなたの頭の中にオレンジと赤の大きな波が打ち寄せては引き、その度にあなたの心を熱く揺れ動かす。耳に血が通い唇が赤くなる。模様が空に投影されて発光し小さな幾つもの星になりあなたの目をくらます、リズムが血管から入りこみ身体が一瞬浮かびあがったかと思うともう足を一歩踏みだし手を打ち鳴らしあなたは踊っている。ここには法も規制も命令もなく、ただただ歓喜と恐怖と血液の流れ、そして天上の星々だけが散っている。詩とはなんでしょうね。言葉とはなんでしょうね。わたしはその答えを聞く前にすでに空で舞っているのだ。


同じく、良い映画を観ると、映画を作りたいなあと思ってしまう。園子温監督の【ヒミズ】を見たとき、久しぶりのこの感覚がわたしを襲った。わたしは非常に悔しかった。顔中手のひらでばしばしと叩かれたように腹の底から悔しい!と思ったのだ。彼はやってしまった、と思った。園子温も染谷祥太も二階堂ふみも、みんなやってしまった。身体全部を使って言葉全部を使ってそして感情の流れに乗りに乗ってああいう風になってしまった。そしてきわめて冷静に考えられながら、ある種の道徳的な何かを根底にそれは作られていた。やらなきゃ、と思った。希望とか絶望とか愛とか青春とか、恥ずかしいものを恥ずかしく無いかえてしまっていた。それにやられた。わたしもやらなきゃ。わたしもやらなきゃ、なんでやっていない?ここまで強烈なパンチを浴びせられたのは久しぶりだった。園子温の詩が好きだった。大学生のときに読んで興奮した。”ジーパンを穿いた萩原朔太郎”だなんて、男はなんてずるいんだろう、と思った。【ハザード】を見て【夢の中へ】をみてますますずるいずるいずるいと思った、わたしは女なんだなあと思った。わたしだってその気になればジェイ・ウエストみたいにクレイジーにふるまって、摩天楼の見える岸に立ちはだかりウォルト・ホイットマンの【Leaves of Grass】を朗唱することだってできる。”I sit and look out upon all the sorrows of the world, and upon all oppression and shame, I hear secret convulsive sobs from young men at anguish with themselves, remorseful after deeds done…”くそう。それから何年もたって【ヒミズ】が来た、フランソワ・ヴィヨンとともに。くそう、やっぱり詩なんだやっぱり言葉なんだそしてやっぱり暴力なんだ、とわたしは始まってから数分で口を大きくあけて笑い出しそうになるのを無理矢理止めながら、自分までぼこぼこにされて、自分まで雨に打たれ泥にまみれ顔中に色を塗りたくって、画面を見つめた。それにしても。言葉はやっぱり革命なのだ、とわたしは思った。わたしの尊敬する人が書いていた。読み、読み替え、書き、書き換え、訳し、訳され、読まれ、読み直され、世界の反復、自分の人生の反復、誰かの人生を反復しているこのわたしの人生の素晴らしさ!「なにも反復を恐れる必要などない」と言われた。「読んでしまったから、書かなくてはいけないのです」と言われた。そして「読めてしまえる、というのは狂気の沙汰です。読むとはそういうことです」と言われてしまったのだ、わたしたちは、ここでもう!


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あのちょっとした暴力と混沌のなかでわたしたちは全部を手に入れてしまった。わたしは彼を丸ごと、そして彼もわたしを丸ごと、とってしまった、しばらくのあいだ。掴みあって叩きあって殴りあって酷いことばを投げつけて、終いには警察がドアをばんばん叩き、わたしたちは腕をうしろに回されそのまま詰問された。きつい懐中電灯の光がわたしの顔に丸い輪をいくつかつけた、右頬、右ひじ、両つま先。わたしには何も見えなくなった、金髪の女がわたしの腕に触れ、これはなんだと質問した、わたしはこれは虫さされだと言った、とたんに痒みが走った。わたしたちはいつも見られていた、中庭でも通りでも、彼が下着姿のままわたしの先を走り携帯電話をアスファルトに投げ捨てわたしがそれを拾い裸足で追いかける。わたしが息を切らし倒れこみ彼がそれをちらと見てまた走りだす。わたしはその場で地面に顔をつけたまましばらく心を放している。車のキーを取りに部屋に戻り駐車場へ行くと遠くから彼がよろよろと戻ってくるのが見える。わたしにはもう何も言うことがないし彼も言葉に追いつけない。メインゲートの鍵を開け重い鉄の扉をどちらかが支えどちらかが先に通る。部屋に入り冷蔵庫をひらき昼に近所のチャイニーズレストランで食べたものの残りを取りだし温めると、めいめい箸で紙のボックスの底を突つきながらテレビの画面を見つめている。NBC, CNN, ABC or Food network.

そういった全てをわたしたちは気づいたころにはもう捨てている。

わたしがこれを語るのはそれがすでに物語になっているからでわたしのほかに誰もこれを思い出すことができないからだ。思い描くことはできても、思い出すことは決してできない。そういう物語が世の中にいくつもあるところをわたしは想像する。語られていないまま思い出されるだけで思い描かれずに終わる物語がたくさんあることを。わたしはそういうものに興味がある。そういうものがすごく好きだ。

【つくった吹雪みたいな花びらが落ちている Olympus μ-Ⅱ】

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tsk

口に指を突っこんで確かめられたら楽だろうねえ
そう言った誰かがそう言った、眼鏡の奥で誰かが目を開けた
山査子の固くなったやつを一切れ、指の先でつまんで齧る
口を開いてもいないのにそれを感じるのだ
髪の毛いっぽん一本をわたしは鉛筆で書き続ける一心に
わたしが知っていることを書き連ねる不乱に
わたしはフトンを涙のように広げてそのなかで眠るのです
そうしたら楽だろうねえ
気づかずにやりすごせたら楽だろうねえ
うまく本物を手に入れられなかったらまねごとでやり過ごす
それでも充分にいいだろう何が悪い
誰でも勝手に連鎖したがる
そういうテイで生きてくれたらわたしもきっと楽だろうねえ
トラブルなんていっさい無い試練なんて感じない
左手のひらを頭にやったら上から小さな林檎が落ちてきた
トタンに音をたてる雨のように一粒ずつしっかりとした
音をたててそのまま地面に落ちていった
あなたの髪の毛が乱れているのが気になったので
わたしは鉛筆を取り出してもういちど書き直す
それを見た仲間が言いました
おれ、いま、とりはだがたっている
それはぜんぜん楽じゃなくて
確信が生まれたのは確信ではないという確信
革命も欠くのも書くのも確実も隠れ家も角砂糖はそれらしく
ぜんぶいつのまにかフれてしまう
わたしは欠く書く掻くのどの下を一心に
不乱にわたしが知っているものを依頼を受けたものを

一生懸命にやれたらきっと、楽だろうねえ
わたしはわたしにしっかり登場してもらうのだ

「なあわかるか? 言葉には強くいて欲しいんだよ、弱くいても欲しいんだよ、おれはさあ」

それは勝ちでも負けでも何でもなくて、きっともっと楽だろうか楽だろうか楽だろうか、わたしが聞いているわたしがそうしている、わたしが楽を食べているあいだきみが楽をその場で脱いでいる。両腕を何本も広げて冬の木みたいに全部をすてて楽をくれる、その枝一本ずつに楽をぶらさげてすべて提示してくれる、隠す楽は何もないよと大きな声で説明しながら細々とした身体をすこしずつこちらに近づけている、楽が道ばたにいくつか落ちた、それを誰かがまた拾い上げた、ここでは何の戦いも繰り広げられなかった。クスリみたいな空き箱、まがったスプーンが星のように空に光っている。

【はじめるところ。Miranda Sensorex】

 ここにいないのにここにいるようにふるまうところ。わたしがあなたであるように見つめるところ。つまり、あなたを通りこした蔦のからまりとわたしの髪のもつれをここで精一杯同じものに見せようと努めるところ。

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恋はしていた

【渋谷の脚 Miranda Sensorex】

彼女の名前はタラ・メイだった。両方あわせてファーストネームだ。彼女はおそらくはフィリピン系のアメリカ人だろう。名字を訊いたなら推測できたけれど、彼女はいっこうにそれを明かさなかった。myspaceでも、facebookでも、tumblrでも、彼女はタラ・メイだった。目の上に被った前髪は分厚く、それをいつもふちの白い大きな眼鏡(レイバンの)が少し押し上げていた。彼女は瓶からビールを飲む。彼女はベル・ジャーを読む。彼女は赤いスリッポンを履く。彼女は車にミランダを載せてダウンタウンにいく。彼女は壁に広がるグラフィティを撮る。彼女はインテリゲンツィアのラテを愛している。彼女は野原で花束をつくりそれを空に掲げてみせるのだ。まるで何事もなかったかのように、そのあとぱっと手を開きすべての花と草を落としてしまう。髪の毛の端を口にくわえた自分の写真を撮ったりする。スクリーンを覗き込んで、録画ボタンをオンにして、彼女はその目の前でスターバックスの紅茶をすする。誰かに見られているのを、気づかない振りをして。誰よりもそのことを意識して。彼女はほとんど動かない。両手で挟んだマグカップを上下させる眼鏡が白く曇る見えない唇が震えているのがわかる彼女の目がガラスの奥で近くを見たり遠くを見たりそれだけがそこに映しだされる、そしておもむろに手を伸ばしてボタンをオフに切り替える。微動すらしない彼女の画だけがそこに取り残されてしまう。わたしはため息をつく。わたしは彼女に恋をしていた。会おうと思えば会える、一言あいつに「彼女に会いたいんだけど」と告げればきっとどうにかして会える。ある夜わたしたちはFWY#110を北に走らせていた。わたしが知らない場所へと車が入り込んでいた、明かりを落として暗く沈む商店と安アパートが連なるストリートで車は止まった。クォーターコインを4枚ポケットから取りだして、運転手に渡す。コインは音を立てずにパーキングメーターの中に落ちていき、それを確認したわたしたちは半ブロック先にあるアングラヒップホップクラブの扉を開けた。LOW END THEORY. わたしは迷わずvod-bombを注文した、緊張して震えていたから。わたしはびっくりした。あたりを見るとまるで彼女そっくりの女たちが散らばっていた。どれもみな白人のhipsterと一緒だった。もしくは床に到達しそうな真っ黒でちりちりの髪をした細い黒人男性とか。My strange eyes following your trace, came all the way down here, with a knife, with a bundle of dead flowers, and a letter to you, and I cut it down, the line you’ve drawn and… 部屋全体が心臓になったみたいな音のなかで、わたしは黄色の液体が体のなかにしみ込んでいくのをこの目で見た。交通がスムースな幹線道路を表したスクリーンの点滅みたいに、上から下に、透明で金色の流れが見えた。血が赤から橙に一瞬だけ変化する。その液体はそのあと、一体どこに流れ着くのだろう?部屋と人と他人とわたしとお酒の入ったプラスティックのコップと天井の梁とその上に輝く星々が、すべて脈打っている。収縮しては拡張する、その繰り返し。なかでも星は見物だった。一瞬空から消えたかと思うと、わたしの鼓動と同時にびかっと光りを発するのだから。不思議とそこには熱はなかった。小さな箱にこもる熱気のようなものはいっさい感じられなくて、わたしはウォッカとレッドブルで冷えた身体を前後に揺らしながら、思い出した。タラ・メイのことを。そのとき男の携帯電話がぴりぴりなったので、二人で覗き込むと、彼女からのテクストメッセージだった。”Hey r u coming? I’m not even there, be there round 1 I think. Can’t miss free the robots though” 【ねえ、来るの?わたしまだ全然いけそうにない、1時くらいかなあ。free the robotsは見逃せないし】緑色に光る小さな液晶画面のなかで、彼女が静かに踊っている。クエスチョンマークで彼女は一回転、そのあとはただただ無言でステップを踏み続ける、靴の音も立てずに、そしてピリオドで彼女は座り込む、疲れてしまったのだろうか?わたしも長いスカートで足を隠しながらそのまま床に腰を降ろした。成長するスピードが著しく速い樹々みたいに、周りの人々がぐんと大きく感じられた。彼女に会うのはやめる、とわたしは思った。彼女に会うのをやめる、と男に言った。赤と青と緑がにじんだ大きなスクリーンを背景に、一人の男がレコードを操っている、その姿はまるで肉をむさぼる動物のように見えた。彼を囲む群衆が今にも手を伸ばそうとしている。彼は決してそれに触れさせない。彼は自分のそれを守る、彼は大きな黒いシルエットをつくりながらそれを一心不乱に食べている。とても静かに、優雅に。血が流れ込み、そこからまた引いていく、そんな音がふくらみ続ける箱からわたしは飛び出した。星の代わりに暗がりにぼやけて光る大きな時計が12時半を知らせていた。パーキングメーターが赤く点滅し、タイムオーバーだとわたしは気づいた。あとは蛇のような道筋を辿っていつもの家に帰るだけだ。彼女はそこにいないし、でもどこにでもいる。わたしは彼女ではないし彼女はわたしのことを知らない。彼女は大きな地図を胸の前で広げてみせるように、恋人を抱きしめる。彼女は世界で男を包んでしまう。わたしは女で、見るべき世界にも目を瞑り、こそこそとここにまた帰ってきてしまった。わたしにただできるのは、彼女と同じカメラを覗き込み、世界をかいま見ることだけ。わたしのミランダ、彼女のミランダ。彼女のロサンゼルス、わたしのロサンゼルス。彼女の前髪とわたしの前髪。マグカップを挟む手はいつも小さく震え、いつまでもいつまでも指先の赤だけがちらちらと点滅している。

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日記 12/30、今年の総括

今年のまとめ的日記です。写真は品川の住処から見えるベランダの景色。雪がふっていたんだろうか。おそらく今年の1月ごろのものです。続きは下をクリックしてください。

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赤と緑はこの火の色

きみの大きな唇は、ちぎれた赤いリボンだ、どこにでも結んでしまえるひらひらとした細い布の切れ端、僕の目の前にいくつも丸い輪をつくって踊る、かつかつと鳴らして近づいてくる真っ赤な靴だ、白くて冷たい床の上を跳ねる一対の革の。凍った池の真ん中に空いた穴を僕は覗いている、虫眼鏡を通して、雪の粒粒がそこらを走る。一歩一歩慎重に近づいて行ったのに、あたりはきしきしと弛みはじめ僕は一瞬の浮遊ののち、真空に入る。きみがきのう挨拶で言った言葉はなんだったか、「気分はどう?」、「なに色が好きなの?」、僕は「赤だ」と答えてきみの口元を目で追った。突きだされた心臓みたいな舌の先に銀色の砂糖玉が載っている、僕はそれを指先でそっとつまみ上げた。魚が一匹、横を通り抜けた、小さな紫のひれが僕のまつげに触れる、透明なガーゼみたいな薬瓶の薄い青みたいな、この水の中だ。少しずつ再び割れ落ちる氷のガラスは、きみの足踏みと同じ音を鳴らして僕はつぶった目の奥で今一度、色を柔らかい肉をすり切れた布の感触を思い出す。【雪の上にしたたる血】という写真をきみと見て、きみが「あれは赤いペンキみたいなやつだ」と言ったことを考える。赤いペンキみたいな血なのか、赤いペンキみたいな何かなのか、赤いペンキみたいな気持ちがしたのか、赤いペンキみたいに熱いけれど哀しい作品だと言っていたのか。結局僕は様々なことが未知のまま道に投げだされていることを知る。街を歩いていて落ちている人々のように。いつの間にか置き忘れたたくさんの魂のことを考える。僕は今、緑の火の粉を散らす松明をかかげてきみのリボンを燃やしに行く。

Your wide lips, are the torn red ribbons, can be tied anywhere the fluttering tattered pieces of cloth, dancing in circles before my eyes, tittups of scarlet high-heels approaching, of leather tapping on the white bleak floor. A hole in the middle of a frozen pond I’m peeking into, through a magnifying glass, grains of snow running away. Foot by foot I got up carefully; there makes a cracking noise, of a slackened ice plate I hover for a second then enter the vacuum. What was the words you said in greeting yesterday; “How do you feel?”, “What color do you like?”; I answered “red” and my eyes followed your mouth. A silver sugar ball placed on your tongue sticking out like a heart throbbing, I picked it up with my fingers. A fish goes through beside me; a tiny purple fin touches my eyelash; transparent gauzy, pill bottle like pale blue, in this water. A glass sheet of ice slowly falling down cracking, making the same tune of your stepping sound, in my closed eyes once again I remember the color the tender flesh the touch of the rags. I’d looked at a picture called 【Blood trickling on the snow】 with you, you’d said “That is what it’s like red paint”, I think of the words. Blood that is like the red paint; something that is like red paint or she felt like red paint or she thought the picture is hot and sad like red paint. I then realize many things are remained unknown, thrown on the road. Like the people dropped on the road, walking. I think about the number of souls left forgotten. I now carry a torch defusing green sparks and go close to you to burn your red stripes.

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